史を読むには訛字に耐ふるを要す。正に山に登るには仄路に耐へ,雪を踏むには危橋に耐へ,閑居には俗漢に耐へ,花を看るには悪酒に耐ふるが如くにして,此に方に力を得ん。酔古堂剣掃
訛字・誤字 仄路・歩くにおぼつかない路のことである 史記を読むと誤字,誤記をはじめ,年時や名前や事実等にも誤りがある。そこで校勘が必要になってくる。しかしそんなことにこだわっておっては史書の妙味を失ってしまう。登山も滅多に人の通らないようなおぼつかない路を探ねて巡るのがまたおもしろい。雪景色をめづるにも危なっかしい釣橋,懸橋などをおっかなびっくりいくところに興がある。閑を得て,今日は一人を楽しもうと思っていると御免なさいと,とんでもない俗物がよくやってくるものである。やれやれつらいことだと思うが,そこをこらえて親切に応対しているのも浮世の一情けなのである。せっかくの花見に美酒がない。美人に教養のないようなものだが,焼酎でも濁り酒でも辛抱して間に合わせながら花にたいして陶然とするのも人間味があるではないか。
コメント